プロレスというのは、黙っていてチャンスが回ってくるものではない。ましてやチャンスが来たからといって、必ずしもそのチャンスをものに出来るとは限らない。例えば1期先輩のスターライト・キッドやジャングル叫女はなかなかチャンスを掴めずもがいているし、10期の後輩である林下詩美は三段飛ばしで階段を登っていった。刀羅ナツコは大学卒業後、スターダムへとやってきた8期生である。
▼訪れた変化
比較的、中高生の若手が多いスターダムの中では珍しいタイプで、同じ大江戸隊の先輩に当たる葉月は年でいえば6歳も離れていることになる。154cmと身長は高くないものの、ウェイトを利用したパワーファイトというのもこの団体では珍しい。そんな彼女に訪れた変化は偶然なのだろうか。
スターダムは基本的にはあまり他団体の選手が上がる事が少ない団体である。フリーの選手の参戦こそあれど、それも他の団体の起用方法とは少々異なる。例えば、今年業界の話題になった選手は多くいたとしても、その選手と関わる事は極めて少ない。
ましてそれが刀羅のようにキャリア3年ぐらいとなるとさらにその可能性が少なくなる。 そこへ訪れた夏すみれ自主興行での他団体選手との遭遇に並々ならぬ興奮を隠せない様子が溢れ出したのだ。
▼物語を知っている人
普段の彼女は割とドのつくヲタクで、配信で映る部屋の壁にはビッシリとAKB48のポスターやグッズが見える。それ以外にもちょこちょこと推しとの2sなどヲタ活の様子も流れてくる。
プロレスを始める理由は人それぞれである。ふいに見た時、キラキラしたその世界に憧れて入る人も入れば、親が根っからのプロレスファンで自然の流れで受けた子もいる。競争は激しく、誰もがベルトに手を伸ばせるわけではない。
彼女が応援する横山由依もセンターを掴んでいないし、総選挙も最高7位である。しかし、彼女には物語がある。研究生としてデビューする前のレッスンは京都から夜行バスで通い続け、前田、小嶋、指原などを有した当時のチームAの新公演の振り入れで、忙しかった篠田の代わりに振りを覚え、献身的にサポートする様をメンバーが見ているなど、自分なりに歩いてきた道が、高橋みなみから総監督という座を引き継ぐまでに至った。
刀羅ナツコというレスラーもまた自分の道を歩いていると言える。試合は荒削りだが、若手との試合ではきっちり仕事をしてみせる。大江戸隊に入ったことでヒールとしての技術を身につけ、シングルリーグ戦ではリーダーである花月に全力でそれをぶつけてみせた。今回の出会いもまた1つの道だ、と言える。
▼葉月の最後を見送る
12月24日が迫っている。突然の引退発表をした葉月が最後の試合に選んだのは、彼女とのシングルだった。葉月にとってハイスピード王座をかけてやりあってきたライバルというのは数多くいる。しかし、その最後に選んだのは同じユニットの後輩だったのだ。
別れの日は1日と近付いても、どこかそれが本当なのかは実感しにくいものである。刀羅の言葉もその日を迎えた後に出てくるものだと思っていた。だが、それは思わぬ形で現れた。
"白いベルト"ワンダー・オブ・スターダム王座を持つ星輝ありさが夏すみれ自主興行を観た感想のツイートに対し、真っ直ぐな感情を叩き付け、葉月の意思を継ぐと宣言したのである。
リーダー花月をもってして自分の指導をやり遂げれた人間は葉月しかいなかったと言わしめる先輩との対戦を前にして、その意思を継ぐと言葉にするということは24日のシングルでは上回るような試合を見せなければいけない、ということだ。彼女にはその覚悟が出来ているのである。
黙っていてチャンスは巡ってこないが、巡ってきたチャンスを掴むのは自らの力である。プロレスラーとしての熱が痣を作る程の激闘を生み、彼女のギアを1段階上げた瞬間が訪れた。
▼2020年の展開は
先述の星輝との戦いは今すぐじゃないと言ったものの、遅からずやってくるだろう。また、今回対戦した他団体の選手への興味が強く見える。スターダムの方針を考えると、難しい部分こそあれど見てみたい戦いは非常に多い。なにより見たいのは、勝ちにこだわる試合、それに結果にこだわる試合だ。
どこかで、シングル戦線に関しては一歩引いた姿を見せてきた。葉月の意思を引き継ぐなら、彼女の強いこだわりを見せる姿勢を引き継いで欲しい。この年末にかけて大きな変化を求められた大江戸隊にとって次の一歩を生むのは刀羅ナツコの存在なのかもしれない。
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