この数日、スターダムは大きな変化に揺れている。葉月の引退に続いて、花月も引退を発表した。ファンだけでなく関係者も巻き込んで様々な発言が飛び交う形となった。この今からでも遅くないスターダムというシリーズは、文字通りスターダムに興味を持ち始めた人がこの選手はどんな関係やストーリーがあるんだろうということを分かりやすくイントロダクトするために始めたシリーズだ。
Ep.1は渡辺桃から始めた。様々な状況を加味すると、2020年のスターダムで動き出すとすれば彼女だと思ったのが大きい。事実、24日の後楽園大会、ワールド・オブ・スターダムのベルトを防衛した岩谷の前に彼女は姿を現した。
しかし、自らスターダムを紐解けば紐解く程に引かれていくのは誰でもない、花月だった。
▼スターダムに留まらない物語
以前、記事にもした通り、花月はスターダムの生え抜きではなく他団体でデビューをして、フリーになり、移籍をしてきた選手である。スターダムの元々にある技術論とは異なるテクニックや指導方法を持っており、その一端が葉月の引退までの試合の端々にも、24日の岩谷との王座戦にも現れていた。
ただ、反対に言えば、スターダムから入ってきたファンにとっては、"紅の血"というキーワードがどういう物なのか伝わらないのではないか、と思ったのだ。
引退発表をした後、花月は
ブログで「戻るはずではなかった青い花月」と記している。現在の大江戸隊では白と黒を基調にしているわけだが、フリーの時は青のコスチュームであり、ブログのヘッダーにもこの両方の姿が載っている。
しかし、時計をさらに戻すと、彼女のコスチュームは赤であり、その印象を打ち消すための"青い花月"だったと言える。ページを遡ることで、彼女に流れる紅の血が見えてくることとなる。
▼女子プロレスにおける紅とは
この"紅の血"という言葉を残したのは、長与千種である。スターダムだけを追っている人にとってはどれほどの人か理解が出来ないだろう。クラッシュギャルズ最盛期、全日本女子プロレスの新人応募数が4000人、オーディション受験者が2000人を超えていたというのだから、その異常さが分かるだろう。
会場を埋め尽くすのは、親衛隊の女性ファン、女性ファン、女性ファン……女子プロレスという業界が女性ファンを渇望しているのは、多くの業界関係者にあの頃の幻想がまとわりついているのは否めない。しかしそれほどまでの熱狂だったのだ。
長与にとって、また全日本女子プロレスにとって紅というのはイメージカラーである。コスチューム、ロゴ、そして、最高峰のベルトWWWA世界シングル王座もまた"赤のベルト"であり、ワールド・オブ・スターダム王座はこのベルトをモチーフに作られている。
全女の中には団体を支える程の活躍をしても、このベルトだけは負けなかった人物もいる。誰もが知る北斗晶だ。相撲でいうならば横綱の如く、風格や秩序、全女の魂というものがこの王座の存在と共にあり、紅という色もまた女子プロレスにおいて非常に意味深い色なのである。
▼継承者 彩羽匠
スターダムに関係する人間でいえば、長与が作った新たな団体Marvelousのエースとなった彩羽匠を思い浮かべるのが、新たな女子プロレスのファンにとっては分かりやすいのではないだろうか。
コスチュームのカラー然り、技然り、フィジカルやかっこよさという部分でも、長与は早くから彩羽を買っていた。そして3年の月日をかけて育てて、自らの選手としての引退、彩羽をMarvelousの代表取締役とすることを発表した。
ここだけを見れば、長与にとっての"紅の血"は彩羽に引き継がれたと見るべきだろう。長与のファンの多くも彩羽の存在を認めている。
しかし、長与はツイートで花月に対して"紅の血"について投げかけた。
それは彼女の選手としての出自へと遡る事となるわけだが、その前にさらに1つ前の出来事に戻る必要がある。"GAEA JAPAN"の存在だ。
▼脅威の新人
かつてプロレス雑誌を彩ったこの言葉、全女を離脱した長与が団体の設立を発表。ほとんど経験のない新人を寮住まいにして、厳しい規律の元1年間育成。 ようやくお披露目した新人選手達は、全女のドロップキックと押さえ込みしかさせてもらえないような存在ではなく、それぞれに得意技を持ち、躍動的でキャラクターの立った存在感から脅威の新人と呼ばれた。
その中で、若干15歳、当時史上最年少でデビューしたのが里村明衣子だった。身長こそ大柄ではないものの、いざという時の気迫と意地の強さがずば抜けていた。多くのベテラン選手に揉まれながらも、その強さを証明してきたのが里村である。
GAEA JAPANもそのイメージカラーは紅だ。この3年間、長与があえてMarvelousのリングに上がらなかった以上に、GAEA JAPANは長与の団体であることを1つの軸にしていたと言える。事実、解散のきっかけの1つは、長与の引退にまつわる話し合いと言われており、その影響力の大きさもある。
その中で、長与の紅を引き継いだのは、里村だった。
各選手のイメージカラーが明確に分けられていたのだが、里村は団体のイメージカラーと同じ紅をまとった。デビューから3年経った98年、長与からも継承者として指名をされた。
今の里村は正しく”横綱”として名が知られている。イギリスを中心としたヨーロッパのリング、アメリカ、WWEですら里村というレスラーが世界において重要人物であると認識している。
長与という存在が生み出した女子プロレスと紅、という関係性は、里村という弟子を通じて、世界に影響を生み出していると言える。
長与は里村の弟子である花月に対し、"紅の血"という言葉を出したわけだ。
▼戻るはずのない青い花月
さて物語を少しだけ進めると、花月のブログに出てくる戻るはずのない青い花月という言葉になる。憶測に過ぎないが、仙女を離れた花月が青いコスチュームを選んだ理由が、赤のイメージから離れるためだとすれば、白と黒から青に戻る時にはどこかで止まっていた時計の針を戻す時間だったのではないだろうか。
また、ブログの中でも、引退に際して、スターダムを退団してフリーになる必要があった旨が記されている。アンドラス宮城が仙女から離れた際にも、スターダムの引き抜き行為があったのではないか、と言われたこともあり両団体の関係性は芳しくはないのだろう。花月は2月に予定する自主興行に関しては口にはしていないが、最後の最後、その視界に入れているのは、かつて越えると宣言した師匠、里村の姿なのではないか。
2018年11月、仙女のリングに上がった時には花月は真っ白な衣装で現れた。もしも、再び師匠の前に姿を現した時、彼女が選ぶ色は一体、何色なのだろうか、そして、そのリングの上で描く色は………何色なのだろうか?
この番外編では、花月選手引退まで全女、GAEA JAPAN、フリー時代のことを遡っていきます。
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