▼ちょっと違う中野たむ
ここだけの話、中野たむはちょっと違う。アイドル出身とかダンスが上手いとか中国武術とかそういうレベルではなく、他人の琴線に触れる才能を持っている人である。
他人の琴線に触れるというと、普通は思わず感動してしまったり、共感をするような事を言うのだろうが、これまでの彼女は他人に怒られるようなことや理解のされないようなことを繰り返してきた。悲しいかな、一般的には、それを逆鱗に触れる、と言うのだが。
しかし、どうだろう。これまではどうにかこうにか他人の目を奪い、注目してもらおうと必死に背伸びして、ようやく視界の隅に入ればうろちょろしていたのだが、ここに来て、中野たむの存在は人一倍輝いてはいないだろうか。
▼不安定にラダーを掛けたような存在
実際のところ、プロレスラー中野たむになる前から彼女の所属していたグループの話とか、そこからスターダムに来る前の団体の話も見ていた。芸能の世界にいる子には必要な自己顕示欲と、隣り合わせの不安定。だが、それは誰でもない中野たむの物語である。
1つの団体に腰を据えて何かを続けることが全てではない。スターダムはそういう意味で言えば、生え抜きと流れ着いた人間が入り交じった団体である。その中でも、彼女がそこに現れたのは、迷い込んだという表現が少しだけ似合う。
3歳から習っていたバレエ、ミュージカル女優への憧れ、安納サオリと万喜なつみのシングルを見てプロレスの凄さを知った下りは、この数日の話からすれば少しゾクゾクとするものを感じる。
中野たむ、という存在自体がおそらく常に他人にそういう何かを感じさせる存在なのだ。彼女自身のどこか不安定な様、落ち着かず、何かを求めてしまう性が他の人を震えさせる。
その姿は、旅の途中に出会った"邪道"大仁田厚に少し似ている気がするのだ。
▼例え批判を受けても
女子のハードコアマッチ、デスマッチというのはとかく批判の的になる。アイスリボンの世羅の人毛デスマッチも批判を浴びた。中野たむがフリーとして上がったFMWで大仁田に見せてもらったもの、そしてスターダムに電流爆破を持ち込んだこと、全て批判をされてきた。
スターダムに流れ着き、大江戸隊にほだされるように加入したものの、Queen's Questとの対抗戦ルーザー・リーブ・ユニットマッチで敗北。この日、長期欠場したばかりのたむがユニットから離脱、後のSTARSに加入することになったのが2018年1月。ここから大江戸隊による壮絶なイジメが続き、
3月に夏すみれが地元名古屋でシングルをやってやる、好きなルールを選ばせてやると煽り、たむの口から出てきたのが、電流爆破だった。
これに大江戸隊のトップ花月がタッグでやってやる、たむのパートナーは紫雷イオだと勝手に表明。ユニットも異なるイオは拒否し、会社側での検討という話になったことから、ファンの間でもイオのするべきプロレスじゃない、たむのワガママを言わせるな、など様々な批判が起きた。
だが、それも彼女の歩んできた道だ。「
あんな風に存在そのものがひとつのジャンルとしても認めてもらえるくらい突き抜けたプロレスラーになりたい」と語るように、ハードコアマッチは彼女の輪郭を描く。
▼放つ言葉の魅力
彼女が表現者として優れてると思うのは、リングの上で感情を吐露する素直さだけではない。今年のタッグリーグ、嫌いだ、嫌いだと言い続けてきた星輝ありさへの思いを吐露したTwitterの一連の投稿は、琴線に触れた。
確かに彼女はじたばたしてきた。どれだけ手を伸ばしても、心のどこかが埋まらないように、このツイートの中にも滲む卑屈な気持ちを抱えていたのだろう。だけど、あの日岩谷に握られた手、そしてどこまでも自分のそんな気持ちの奥底まで照らすような存在の星輝。これを鮮明に描けるのは、彼女の才能そのものではないか。
▼2020年の展開は
惜しくもゴッデス・オブ・スターダムを取り逃したが、星輝とのタッグが機能したことで、STARSとしての動きはさらに増していくことは間違いない。
個人的に見たいのは、刀羅ナツコとの壮絶な攻防はまだまだ進化するように思うし、他のユニットにいる若手共を徹底的に締め付ける鬼軍曹っぷりも見てみたい。サイズ感で言えば、米山とテクニカルな戦いはスターダムにまた違う風を吹かせるようにも思う。
レスラーとしてのキャリアは駆け足、いや、坂を転げるように歩んできたからこそ、ここから先は大事な仲間とジープで進む。そんな道の先を見てみたいのである。
【NEXT:STARDOM:今からでも遅くないスターダム Ep5 スターライトキッド】
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