▼"悪の華"木村花
TOKYO CYBER SQUADは今年の4月のドラフトを経て、木村花の元、結成された新しいユニットである。ゴアテクノの入場曲にノッて蛍光色のユニフォーム、岩谷麻優が正統派の女子レスラー像だとすれば、木村花という存在は真逆の存在と言える。しかし、それは彼女自身の人生そのものである。
父親はインドネシア人、母はプロレスラー。幼い頃から母の仕事についてきて、周りにレスラーのいる生活を送ってきた。ハーフということで様々な経験をしてきたが、自らこの道に進むというのはあまり深く考えていなかった、と言う。
▼レスラーへの道
彼女はスターダムの生え抜きではない。
W-1が主催するプロレス総合学院の出身で、AKIRAやカズ・ハヤシなど様々な選手の手解きを受けてきた。小学校高学年から一度は離れたプロレスの世界に高校に入って戻ってきて、母親の手伝いをするようになり、見るのではなく実際にやるのはどうかと興味を持ち始めた。
卒業後、学院の卒業生で組んだプロレスリングACEに所属しながら、様々な団体で活動をしていくことになる。キャリアが浅いながら、非凡な才能を感じた。動いた時の華やかさとそれを上回るリズムの良さである。
幼い頃から見てきた試合の数、学校で学んできたレスリングだけではない仔細なスキル、彼女自身が持つ頑固で負けず嫌いな性格、これらを掛け合わせた上で、レスラーとしての才能を感じるのだ。
プロレスというのは、時にアートとして語られる。木村花のプロレスというのは、まるでその衣装のようにサイケデリックでポップな、それ以外のレスラーからは聴こえてこない音楽に包まれている。
▼母親の存在
母、木村響子はどちらかと言えば、根性の人だ。FMWのテスト生に始まり、紆余曲折を経てJWPに足を踏み入れる。そこから2年足らずでフリーに転向するが、息吹、NEO、WAVE、さらには蛍光灯デスマッチ、古巣であるJWPやREINAなど様々な団体で活躍を重ねた。
だが、キャリアのない若いフリーに対する風当たりはまだまだ強い中、団体にとってどんな活動をすれば自分が必要とされるのかを考える姿はクレバーでありながら、どこか泥臭くいつだって必死だった。それ故に常に厳しく、ヒールである姿勢が際立っても見えた。
母の姿から見ると、木村花のプロレスというのは重なる部分と異なる部分が見えてくる。自分を譲らない我の強さにあの日の木村響子の姿を重ねる瞬間がある。また、彼女自身の若さ故、現代的なひょうひょうとした空気も感じる。それが非常にスタイリッシュでクールに見えるというのも事実だ。
2世レスラーというのは、時にその面影に苦しめられることがある。コーディー・ローデスもデビュー当時、父親の面影をなぞる形でなかなか浮上のきっかけを掴み切れなかった。 だが、花は自らの内側にある感情を隠さないことで、既に自らの存在を強く指し示しているのである。
▼スターダムへの参戦
2012年木村響子はスターダムに参戦、今、SEEdLINNNGで活動する夏樹☆たいようと
世IV虎のユニット『川崎葛飾最強伝説』に合流。これを追放されると、9月に木村モンスター軍を結成する。178cmの巨体ヘイリーヘイトレッドやアルファ・フィメールなど次々と外国人選手と合体、その後、2年余り敵無しと言った状態の大暴れをしてみせた。
15年、安川惡斗との内部抗争の末、木村モンスター軍は『大江戸隊』としてアップデートされることとなる。
翌年、OZでのアジャ・コング戦、JWPでのJWR認定ジュニア王座&POP王座の戴冠など、若手の中でも目立ち始めていた花は誘われるように、スターダムへ参戦。母と花月と組み、6人タッグベルトであるアーティスト・オブ・スターダム王座を戴冠する。
それまではどこか華やかで、明るくて、フレッシュなレスラーだった彼女が、少しずつその才能を開花させ始めたのもこの辺りだ。
彼女は、スターダムに対して、「学校みたいで、外国人選手もいっぱいいて安心出来た」と語っている。ハーフであるということの阻害から彼女は洋楽に多く助けられたと言い、彼女にとっては心地の良い環境だったのだろう。
▼ドラフトで見せた花の優しさ
2018年、メキシコ修行から戻った花は大江戸隊のリーダーとなった花月と反発、ユニットを離脱することとなる。そして、19年3月にW-1を離れ、スターダムに所属することを発表する。物語は冒頭、TOKYO CYBER SQUADを結成するに至るドラフト会議へと戻る。
ユニット抗争の末、リーダーが敗退したらユニットが解散するという過酷な試合を経て行われたドラフト。花は第一巡に自らが手を下し、解散をさせたユニットJANのリーダーであるジャングル叫女を指名。会場をどよめかせた。
その後も、小波や多くの外国人レスラーを穫り、最後、どのユニットにも所属していなかったルアカ、吏南を「どちらにしようかな」と雑な選び方をしながらも、2人とも選んでみせた。
どこか、花自身が抱える選ばれない寂しさみたいなものをこの瞬間に感じた。大体、6、7名のチームが多い中、外国人と若手が多いとはいえ最大9名の大所帯となったのだ。
木村響子は様々な団体でヒールユニットを結成、合流することで業界内での立場を拡大し続けた。レボルシオン・アマンドラやブラック・ダリアなど日本の女子プロレス史に残るユニットの数々だ。
花が作ったTCSは彼女にとっての第一歩なのかもしれない。
▼2020の展開は
彼女に求められるのは結果である。岩谷もインタビューで指摘しているが、TCSの勢いはあれど、個々人の成績という意味ではまだ突出していないというのも事実である。
今年の5★GP(シングルリーググランプリ)で花は優勝したものの、10月に王者ビー・プレストリーに挑んだ"赤いベルト"ワールド・オブ・スターダムでは惜しくも手が届かなかった。
現在、タッグベルト、ゴッデス・オブ・スターダムはユニットの小波、ジャングル叫女が所持、小波は12.24、星輝ありさの持つワンダー・オブ・スターダム王座へと挑む。
外国人選手でいえば、"トップガイジン"ビーはQQ、"ニバンガイジン"ジェイミ・ヘイターは大江戸隊と、なかなか団体内の構図を変えれずにいる。
花自身の成績も、ユニットでの勢いも来年は大きく求められることになる。例えば、岩谷から花月がワールド・オブ・スターダムを奪うことがあれば、花は挑戦を表明して、大江戸隊vsTCSの総力戦というのも、2人の関係を考えれば面白い話である。
テラスハウスに出演し、恋愛への興味を隠さない花は、女子レスラーとしては新人類と言っても過言ではない。だが、それこそが花のアイデンティティとも言える。誰かと一緒じゃないことを認めるのが、彼女自身の強さであり、生き方だった。レスラーになって、それをそのままリングの上で表現する。彼女はナチュラル・ボーンなのだ。これからやってくる多くのファンにとってのアイコンは木村花になるのかもしれない。
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